A:正体不明 メルティゼリー
シルフ族の「いたずら」の悪趣味さは知っているな?
連中が、何やらよくわからない……いや、知りたくもない物を、煮詰めて造ったのが「メルティゼリー」だ。
一体、何をどうやったら、あんな薄気味悪い魔法生物を造り出せるのか……。見ただけで、三日は寝付けなくなる気持ち
~手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
黒衣森の東部森林のナインアイビーの奥地にシルフ領と呼ばれる地域がある。そこにはシルフという蛮族が住んでいる。大きさで言えば30~50cmくらい。ララフェルの半分くらいの大きさで、植物の葉を重ねて作った人形のような姿をして、航空力学的なことは分からないが小さな羽で宙を飛ぶ。いわゆる妖精族だ。
そのシルフは雷神ラムウを信仰していて、かつては蛮神ラムウを召喚しようとした「悪い子シルフ」がシルフ領を占領し、彼らに迫害を受けた召喚反対派の「良い子シルフ」達はシルフ領の入り口に仮の集落を作り、そこで暮らしていた。悪い子シルフの企みは良い子シルフの依頼を受けた冒険者によって潰えたが、その仮宿がことのほか過ごしやすかったらしく、その後も「シルフの仮宿」と呼ばれる集落はそのまま残っている。今回のターゲットがシルフ族というわけではないが、その原因に深くかかわっているという理由であたしと相方はシルフの仮宿に滞在していた。
今回のターゲットはメルティゼリーという化け物だが、これはどうやらシルフ族がいたづらで作り出した化け物のようだ。話をきいたシルフによれば人間がする料理の真似をして鍋にシルフ達の嫌いなものを次々と放り込んで、水と一緒に煮込んだのだという。あたしも相方と違って料理の腕について他人にとやかく言えるほどの義理はないのだが、食材を煮込んで毒薬のようなスープを作ったことはあっても、熱々のモンスターを作ったことは一度もない。一体何を煮込んだらそうなるのか見当もつかないが森に住む猟師が襲われて怪我をしたというのだから放っておくわけにもいかない。
シルフの仮宿で2泊ほど情報収集の名目で長の話を聞いたり、買い物をしたりしてのんびり過ごした後、あたしと相方は作り出した張本人であるシルフを案内につけて捜索を開始した。
ナインアイビーから吊り橋を渡って森の奥へと進むとそこに漂う空気が変わった。シルフ領に入った証拠だ。シルフ領は元々深い森の中にあるため陽の光が届かず薄暗いのだが、それに輪をかけて「悪い子シルフ」が人間の侵入を嫌い毒性の強い植物や菌類を繁殖させているため空気が悪い。
そのシルフ領を奥へ奥へと進むとシルフ達の街が見えてきた。シルフの住居は樹木からつるされた球状の家で、それが毒性のモヤがかかった薄暗い空気の中にいくつも吊るされ、小さな窓から明かりが漏れる風景は他では見られないメルヘンチックな光景になっている。
その住居地を左手に見ながら奥へと進む。すると案内のシルフが突然サッと物陰に身を潜めた。あたし達もそれにならって身を隠す。
「いた?」
あたしが小声で聞くと、シルフは振り返りながらウンウンと頷いた。あたしはしゃがんだまま少し進むと目の前を覆う草を掻き分けてその間から覗き込んだ。
「…え?」
そこにいたのは2mほどの高さがあるゼリー状の何かだったが、気色悪いことにそのゼリーには無数の目が付いてる。その目が一つ一つ、思い思いの方向を見ている。
あたしは無言で振り返ってシルフの顔を一度見てからもう一度覗き込んだ。
「…ねぇ、料理しててあれが出来たの?」
あたしが肩越しにシルフに聞くとシルフはまたもや大きくウンウンと頷いた。相方もあたしに引っ付くようにして草陰から覗くと思わず「ひっ」っと声をもらした。
「目が合っちゃったぁ」
相方が泣きそうな顔で振り返った。
あたしは真剣な顔でそれを見つめるシルフを見ながら心の声が無意識に漏れた。
「…無いわぁ」